ボクがこどものころに、きっかわのおじちゃんちにあずけられていたんだ。あるひ、おじちゃんとデパートにいったらまいごになってしまった。それからすこしして、きっかわのおじちゃんはしんじゃったんだ。おばちゃんとボク、いっしょにねこんじゃったんだよね。そんなおもいでだよ。

ボクがこどものころのはなしなんだけど

神の子羊
神の子羊

ボクがうまれてすこしたったときのことだ

きっかわのおじちゃんちにあずけられてた

もちろん、まいばん

ママがむかえにきてくれてたから

おとまりすることはなかった

だけど、どちらかというと

きっかわのおじちゃんのことは

だいすきだった

あんまりおこられなかったし

きっかわのおばちゃんもやさしかったから

あさ、ママとあるいていって

きっかわのおじちゃんちにあずけられて

そのままゆうがたまで

そこですごしていた

あまーい、あまーいコーヒー

「おはようございます」って

きっかわのおじちゃんに

あいさつするときは

たいてい

きっかわのおじちゃんは

あさごはんをたべていた

トーストと

あまーい、あまーいコーヒーだけなんだけど

そのコーヒーに

トーストをはんぶんにして

チャポンってつけて

パクパクたべている

それをみてたら

ボクもたべたくなって

ちょっとだけ

わけてもらったりした

「コーヒーはのんじゃだめ」って

ママにいわれていたけど

「あまーい、あまーいコーヒー」に

チャポンってつけたトーストを

ときどき、たべさせてもらった

それは、きっかわのおじちゃんによると

「オトコとオトコのひみつだからな」ということだった。

あるひ、ボクは、その、きっかわのおじちゃんにつれられて、

デパートにいった

デパートのエスカレータで、どんどんうえにのぼっていくのがなんだか、たのしかったのをおぼえている。

なにをかったのか、ぜんぜんおぼえてないけど、ちいさいこどもじだいは、それでいいんじゃないかな。

さて、かいものがおわって、こんどは、エスカレータをどんどんおりていったんだけど、

ふと、きがついて、てをつないでいるひとを、みあげた。

「あれれ、パパじゃあない」

って、おもったんだ。

(ほんとは、きっかわのおじちゃん、だったはずなんだけど)

それで、なぜかパニックになって、てをはなして、オロオロ、オロオロ。

パパとママをさがしはじめた。

もちろん、みつからないから、さいごは、ギャンなきして、それで、デパートのてんいんさんにみつけてもらった。

まいごコーナーにつれていかれた

まいごコーナーにつれていかれて、そこで、なまえをきかれた。

「ちょっとまっててね」

って、やさしくいわれて、じゅうしょも、でんわばんごうもいえないこどもだったんだけど

パパとママが、むかえにきてくれた。

これが、ボクのはじめての「まいご」だ。

そのときでもなお、ボクは

「きっかわのおじちゃんといっしょに、デパートにきていたはず」

だってことを わすれているんだけど

いっしょに、きていたはずの、きっかわのおじちゃんが、どれだけ、しんぱいしていたことか

きっかわのおじちゃんのしんぱい

どれだけ、ボクのことをさがしていたのか、ききそびれちゃっていた。

そのことはいまでも、きになっているんだけどね。

そのひは、パパとママには、ひどくしかられちゃったし、きっかわのおじちゃんとも、いつもどおり、

「オトコとオトコのひみつの、あさごパン」をわけてもらえる、なかだったから。

それから、しばらくして、きっかわのおじちゃんは、しんじゃったんだ。

あるひ、きっかわのおじちゃんちにいったら

「おじちゃんはね、しんじゃったんだよ」

って。

どういうこと?

「おじちゃんはね、しんじゃったんだよ」って、おばちゃんが、また、いった。

そのまま、きっかわのおばちゃんは、フトンをしいて、ねこんじゃったんで、ボクもいっしょに、おなじおふとんでねこんじゃった。

こどもにできることってこれくらいしかないからね。

そのひのゆうがたも、ボクは、ママにしかられた。

ほいくえんのひとが「きょうは、おおうちくん、こなかったね」って、しんぱいしてたから……。

きっかわのおばちゃんのしごと

きっかわのおばちゃんは「ヤクルト」のれいぞうこをもっていて

ときどき

うりもののヤクルトをボクにも、のませてくれてたんだ。

そのひは、きっかわのおばちゃんも「もう、ヤクルトやめる」って、いってた。

そのあと、ボクが、あずけられなくなってから、きっかわのおばちゃんちへはいくことなかったけど、なんねんもたった、あるひ

きっかわのおばちゃんもなくなった

ママから「きっかわのおばちゃんがなくなった」って、おしえてもらった。

なみだもでなかったけど、やさしさの、かたまりみたいなものが、すーっと、むねからすべりだしていく、きがしたんだよね。

これは、

きっかわのおじちゃんとおばちゃん

と、こどものころのボクのできごとだ。

これはホントのはなしだ。

やさしさのかたまりって、すべりだしても、なくならないんだよ。

おしまい

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